【変身物語】英雄と象牙の乙女。後世にその名を残す「ピュグマリオン」の物語
 この記事は近々リライト予定です。それまでは、文字だらけの少々味気ない記事のままですが、良ければぜひご覧になってください。

唐突にこんなことを打ち明けるのはなんとも恥ずかしいのですが、私(♂)は可愛いらしいものが好きです。幼い頃からムーミンがお気に入りで、ぬいぐるみやマグカップなどのグッズをそれなりに集めてきました。その他、オタク文化に代表されるような漫画、アニメにも親しんできたので、いわゆる美少女フィギュアなどもいくつか持っていたりします。なんだか気恥ずかしくて飾ってはいないんですけどね。

残念なことに、男性のそういった趣味はあまり世間体が良くありません。「少女監禁事件」など、歪んだ性愛が絡む事件が世間を賑わすと、その要因と犯人の偏愛症を結びつけるメディアによって、フィギュア愛好などの趣味は悪癖として取り上げられることがままあるのです。そんなとき、よくよく引き合いに出されるのが『ピュグマリオン』というお話。

『ピュグマリオン』は、古代ローマの詩人オウィディウスが記した神話集成『変身物語』に収められた250編にも及ぶ作品の一つで、英雄ピュグマリオンが自らの彫刻に恋する物語として広く知られているものです。『変身物語』と『ナルキッソスとエコー』についての記事はこちら

偏愛の代名詞として語られるピュグマリオンの愛。今回は、そんな『ピュグマリオン』の物語と、それに由来する言葉や作品をご紹介しようと思います。

『ピュグマリオン』

孤独な英雄

キュプロス(キプロス島)の英雄ピュグマリオンはあるとき、春を売りながら恥じらいもしない娘たちと、その乱れた生活とを目の当たりにします。それにより、彼は本来女性の内に潜む多くの欠陥を悟って、失望の末に妻を娶(めと)らずにいました。

そのうち、彼はその素晴らしい彫刻の腕前で、真っ白い象牙に生身の女性ではありえないほどの美貌を刻みました。そうして出来上がった、文字通り彼の理想の女性像に彼は恋してしまいます。まるで生きた乙女のように見えるその像は、ただ恥じらいによって動かずにいるようにさえ感じられるほどでした。

やがて、彼女が象牙であることを認められなくなったピュグマリオンは、彼女の肌を撫で、口づけをして、話しかけ、抱きしめることを日課とするようになります。また、裸でもなお美しい彼女に服を着せ、たくさんの贈り物を届けるようにもなりました。綺麗な花に貝殻、「太陽神の娘の涙」とされる琥珀、それから宝石や真珠の装飾品。どれも乙女が喜びそうなものでした。

英雄と象牙の乙女

そんな日が続くうちに、女神ウェヌスを祭る祝いの日がやってきました。奉献を終えたピュグマリオンは、祭壇の前に立って恐る恐るその願いを口にします。

ウェヌスギリシア神話においてアフロディーテに対応する、ローマ神話の愛と美の女神。ヴィーナス(Venus)として知られる

「神々よ、すべてを与えることがおできになるなら、どうか、わたしの妻として」――象牙の乙女とはいいそびれて――「象牙の乙女に似た乙女をいただけますように!」

2009年 岩波書店 オウィディウス 中村善也訳 『変身物語』(下) P75

ピュグマリオンの祈りを見届けた女神ウェヌスは、祭壇の火を三度燃え上がらせました。それは、愛の女神が彼の"本意"を理解し、その願いを叶えたことを意味しています。

それを見たピュグマリオンは急いで家に帰りました。そして、寝床に横たえた愛しい乙女の像に駆け寄って、そっと口づけを与えます。すると、信じ難いことに乙女の唇は柔らかく、温かく感じられるのでした。

驚いたピュグマリオンは、半信半疑のうちに彼女の体に触れてみます。すると、やはり象牙の硬さは失われていて、指先に心臓の鼓動を感じるのです。彼は女神ウェヌスにありったけの言葉で感謝を示しました。そしてまた、彼女の唇にその唇を重ねるのでした。

彼の口づけに気付いた乙女は、恥ずかしそうに顔を赤くしながら伏せた目を上げ、大空と恋焦がれるピュグマリオンとを見ていました。日の光に照らされるなか、そんな彼らの結婚に女神ウェヌスが立ち合います。

9ヶ月後、二人の間にパポスという娘が生まれました。それから、その土地はその娘の名にちなんで呼ばれているのだそうです。

ピュグマリオンに由来するもの

心理効果と性癖

ピュグマリオンが象牙の乙女を愛し、大切にしたからこそ、彼女は本物の肉体を手に入れました。この物語から、「教師に期待された学生の成績は向上する」という心理効果を指して「ピグマリオン効果」と呼ばれています。しかし、これは教育者の経験則としての側面が強く、近年の研究においてはその効果を否定されています。残念。

もう一つ、ピュグマリオンの名がついた学術用語に「ピュグマリオニズム」というものがあります。これは人形偏愛を意味する語で、人形そのものや、女性を人形のように扱うことに興奮を覚える性癖を指しています。日本では「ピグマリオンコンプレックス」という和製英語の方が有名でしょうか。

注意していただきたいのがこのピュグマリオニズム、人形(フィギュアなど)の収集家や愛好家の気質をそのまま指す語ではないのです。ピュグマリオンの強烈なイメージから、特に美少女フィギュアの愛好家などはひどい偏見に晒されがちですが、精神疾患として認められでもしない限り、安易にこの語を当てるのは控えるべきでしょう。

作品名とストーリー

オウィディウスの変身譚はどれも人気なため、そのうちのいくつもが様々な作品の下敷きになっています。なかでもこの『ピュグマリオン』は、古くから多くの作家に愛されている物語として名高いものです。特にヴィクトリア朝時代の劇作家の間で流行した題材でもありました。

『ピュグマリオン』を元にした作品で一際有名なのが、ジョージ・バーナード・ショーが1912年に完成させた戯曲『ピグマリオン』です。さらに、それを原作としたミュージカル『マイ・フェア・レディ』は、1964年にオードリー・ヘプバーン主演で映画化もされました。この2つは結末こそ違いますが、どちらも傑作として知られています。

階級社会への批判や女性の自立などの普遍的なテーマを描いたショーの『ピグマリオン』は、自分の無意識に潜む様々な偏見を自覚させてくれる素晴らしい作品です。性別、家柄、言葉遣い。私たちの生きる現代日本にも、正すべきこの偏見は潜んでいますからね。『マイ・フェア・レディ』はよりコミカルなので、喜劇が好きな方はそちらをどうぞ。

ショーの『ピグマリオン』の他、1886年にフランスの作家ヴィリエ・ド・リラダンによって書かれた『未来のイヴ』も『ピュグマリオン』を元にした作品として有名です。アニメ好きの方には良く知られていますが、押井守監督のアニメ映画『イノセンス』や、伊藤計劃の小説『屍者の帝国』(2015年に劇場アニメ化されました)など、多くのSF作品が『未来のイヴ』の影響を受けています。

最後に

最後までご覧いただきありがとうございます。ラテン文学の名作『ピュグマリオン』についてお話でした。楽しんでいただけましたでしょうか。

『ピュグマリオン』に出てくる象牙の乙女は、後世の人々によって「ガラテア」という名を与えられます。これは、その美貌で名を馳せた海のニンフ(妖精)の名です。この「ガラテア」という名も、ファンタジー作品などで散見しますね。私事ですが、大好きな漫画『CLAYMORE』に出てくるキャラクターで一番好きな戦士がガラテアという名でした。強くて優しくて賢くて美しくてカッコいい女性です。

現在もなお、広く深く愛されるピュグマリオンの物語。先に挙げた作品でなくとも、皆さんの身近なところにその欠片を見つけることができるかも知れません。

P.S.岩波文庫が刊行している『変身物語』において、ピュグマリオンの話が載っているのは下巻になります。全編を通して読まずとも楽しめるかも知れませんが、ローマ神話の世界観を理解するためにも、是非とも上巻から読まれることをおすすめします。

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