
私たちの文化的な生活に欠かせないスーパー衛生グッズ「トイレットペーパー」。今では“あって当たり前”の日用品として普及していますが、皆さんはこんな疑問を感じたことがありませんか。
「トイレットペーパーができる前って、みんな何でお尻を拭いていたの?」
普段から何気なく使っていますが、「トイレットペーパーのない生活」って考えられませんよね?一体、前時代人たちはどうやってお尻を労わっていたのでしょう。
ということで、今回は「トイレットペーパーの歴史」と「トイレットペーパー以前のお尻拭き」をご紹介したいと思います。
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「トイレットペーパー」の歴史
中国は紙を発明した。そしてお尻を拭いた。
ご存知の方も多いと思いますが、私たちが想像するような“紙”の起源は古代中国にあります。きっかけは西暦105年、後漢時代のことです。
宮廷の役人であった蔡倫(さいりん)によって、新しい「製紙技法」が発明され、現在の「和紙」のような良質な紙が安く作られるようになりました。
そのため、中国では早くも2世紀から紙が普及し始め、やがて読み書き以外の用途、つまり「お尻拭き」にまで紙が使われるようになったのです。
現存する記録から、6世紀末にはいらなくなった紙が「お尻拭き」として使われていたことが明らかになっています。これがいわば“トイレットペーパーのご先祖様”ですね。
余談ですが、紀元前3000年のエジプトで発明された「パピルス」もまた“最古の紙”として有名ですが、製法が異なるため狭義の“紙”ではないそうですよ。

世界初のトイレットペーパー会社 in 中国
いち早く“紙でお尻を拭く文化”が生まれた中国。そんな中国で「世界初のトイレットペーパー会社」が誕生したのは、必然と言えば必然かもしれません。
詳しい年月日は不明ですが、世界初のトイレットペーパー会社が設立されたのは14世紀のことだとみられています。
というのも、暴君として悪名高い洪武帝(こうぶてい)が「特別に柔らかい、良い香りのトイレットペーパー」を、1万5千枚も注文していたことが記録に残っているためです。
また、1393年の記録には、明(みん)の宮廷用に「60cm×90cmのトイレットペーパー」が、なんと72万枚も作られていたことが明らかとなっています。

イギリスには「お尻拭き係」がいた!?
打って変わって、中世ブリテン(イギリス)では庶民と貴族の間で“お尻拭き”にも格差がありました。
庶民が一握りの羊毛や葉っぱ、トイレに備え付けの「gompf stick」と呼ばれる棒を使っていたのに対し、貴族は木綿や麻布を使っていたのです。
といっても、実際に貴族のお尻を拭いたのは彼らの「お尻拭き係」でした。そのため、14世紀の“召使い用マニュアル”にはお尻拭き係の心構えが記されていました。
16世紀前半、イングランド王ヘンリー8世のお尻拭き係は“素手”を使っていたようですが、そこには大変な信頼があったそうで、またトイレの時間は王との貴重な面会時間として非常に価値があったそうです。
それからほどなくして、「グーテンベルグの活版印刷」が普及したことで、イギリスでもパンフレットや本の未使用ページなどがお尻拭きとして使われるようになりました。
余談ですが、17世紀イングランドの作家トーマス・ブラウンはこんな言葉を残しています。
「あまたの本を書き、あまたの子をもうける男は、ある意味で“公共に資する者”と言えるかもしれない。なぜなら、その男は“尻拭き紙”と“兵士”を供給するからだ」

世界を変えた男、ジョウゼフ・C・ゲイエティ
お尻拭きに“紙”が使われるようになった歴史はここまで。では、私たちが知るような「トイレットペーパー」の始まりはどこにあるのでしょうか。
答えは、1857年にアメリカで発売された「ゲイエティの衛生紙」。実業家ジョウゼフ・C・ゲイエティの名が透かし印刷された、アメリカ初の市販トイレットペーパーです。
誰もが新聞や雑誌の切れ端など“タダ同然で手に入るもの”でお尻を拭いていた当時、ゲイエティはそれらのインクが痔の原因だとして、“痔の治療と予防のために”とトイレットペーパーを売り出したのです。
当然、彼の誇大広告は医学界のお歴々を怒らせることになりましたが、彼への反論や便乗商品の登場、トイレットペーパーの売り込みなどは、結局のところ1930年代まで続く一大ムーブメントとなりました。
この騒動を経て、「お尻拭き紙にお金を払う」という意識が人々のうちで“当たり前”になっていったようです。ちなみに、日本にトイレットペーパーがやって来たのは20世紀初めのことでした。

トイレットペーパー以前の「お尻拭き」
ここからは、ゲイエティの騒動によってトイレットペーパーが普及する以前の“代表的なお尻拭きたち”を簡単にご紹介したいと思います。
スポンジ:古代エトルリア、古代ローマ
かつてイタリア半島で栄えた2つの文明、古代エトルリアと古代ローマでは“天然のスポンジ”である海綿を棒の先につけて、お尻拭きとして使っていたようです。スポンジは酢やワイン、塩水につけておくのだとか。お尻がスースーしそうですね。
小石:9世紀アラビア
預言者ムハンマドは“小石”を使ってお尻を拭くときの注意点を言い残しています。しかも「拭く回数は奇数にすること」「小石は左手で持つこと」という具体的なもの。
現代でもイスラム圏の人々は左手でお尻を拭きますが、さすがに小石は使いません。一般的な水洗式トイレのすぐそばにシャワーがついていて、それで流しながら拭くそうですよ。
葉っぱ:中世ブリテン(イギリス)
前述した通り、中世ブリテンの庶民は“葉っぱ”をお尻拭きに使っていました。当時のジョークにこんなものがあったそうです。
「森の中で一番“キレイ”な葉っぱは何か?答えはヒイラギ。あのギザギザの葉っぱでお尻を拭く人はいないから」
穴あきカタログ:19世紀アメリカ
19世紀当時、「シアーズ・ローバック社」が頒布していたカタログは、左上の隅に“便器の横に掛けておくため”の穴が開いていました。いらなくなった紙でお尻を拭く習慣は、17世紀以降のヨーロッパの影響を受けたものですね。

最後に:現代に生まれてよかった。
最後までご覧いただきありがとうございます。ここからは余談を。
トイレットペーパーといえば、子供の頃、祖父の家のトイレに“ことわざがプリントされたトイレットペーパー”がありまして。バリエーションの少なさが残念でしたが、これが意外にも勉強になったんですよね。
そこで閃いたのですが、「関ケ原の戦いは1600年だよ」とか「舞姫は森鴎外の作品だよ」とか書かれたトイレットペーパーがあったら、教育熱心な親御さんに売れるんじゃないでしょうか?(もうあったりして。笑)
ともあれ、トイレットペーパーが当たり前にあるというのは“とても幸せなこと”なんですよね。この記事をご覧になった皆さんがそんな“ちょっとした幸せ”に気付ければ、そうして皆さんの毎日が少しでも明るくなれば、と願っています。